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月一読書 2023年5月 営業部M

2023.05.31

今回は、月一読書の活動で社員が読んだ本と、その中で気になった項目についてご紹介します。

【読んだ人】
営業部M
【書名】

映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形
【著者】

稲田 豊史
【発行所】

光文社
【発行日】

2022年4月30日
【本を手に取ったきっかけ】

漫画家さんがSNSで紹介していたことから知り、よく自分が意識するテーマが取り上げられており、クリエイターの必読書だと感じだから。

【気になった項目】

1. 「コンテンツを消費」と「作品を鑑賞」の違い

・コンテンツを消費:その行為とは別の実利的な目的が設定されている。「世の中の話題についていく」「他者とのコミュニケーションが捗る」など。
……食事で言えば、栄養摂取や筋肉美を手に入れるための行為。
→“量”に物差しを当てているため、「短時間」で「大量」に消費できることで得られる快感が、視聴満足度に組み込まれうる。

・作品を鑑賞:その行為自体が目的。ただ作品に触れること、味わうこと、没頭すること。それそのものが独立的に喜び・悦びの大半を構成している。
……食事で言えば、食事自体を楽しむこと。
→“量”に物差しを当てていないため、「作品」の良し悪しの基準をあえて設定するなら「鑑賞者の人生に対する影響度」とでもいうべきものになる。

➡ある映像作品が視聴者によってどういう存在かによって「コンテンツ」と呼ばれたり「作品」と呼ばれたりする。

2. 「バカでも言える感想」の可視化+ネットで「おもしろい」と言うのは勇気がいる→説明セリフの多い作品を生み出した可能性が高い。

※「バカでも言える感想」の可視化:論理的な説明やエビデンスがいらない「わかんなかった(だから、つまらない)」が、SNSの普及で不特定多数に向けて爆発的な拡散力で可視化され、相応の人数が同調し、まとまった数になって製作委員会や制作スタッフの目に飛び込めば、彼らがその“民意”を完全に無視することはできない。

※ネットで「面白い」と言うのは勇気がいる:作品に賛同するよりも、クレームを言うほうがマウントを取れる。“こんなわかりにくい作品を作りやがって”と憤ることで、被害者になれる。しかも被害報告はネット上で賛同を得やすい。

3. 「わかりやすさ」と「作品的野心」の両立が求められる→脚本がオープンワールド化する

「説明セリフを入れざるをえなくとも、それとは別の部分に違うものを入れる」

例:NHK朝ドラの『あまちゃん』(2013年4月~9月放映)
リテラシーの高い人は細かいサブカルネタや1980年代の時代背景を掘り下げて楽しんでいたが、それが全くわからない人も、のんさん演じる天野アキの奮闘をただ追いかけているだけで楽しめた。

※オープンワールドゲーム:『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(Nintendo Switch)など、舞台になる広大な仮想世界を自由に動き回るタイプのゲーム。一応目的は設定されているが、その世界でどのように過ごすかはプレイヤーの自由。制作者側が用意したすべての建築物や場所に足を踏み入れずとも、またすべてのイベントを体験しなくとも、一通り楽しめるように設計されている。

4. “推し”という言い回しが上手くはまった、“個性的すぎない個性”を積極的に発信しなければならない世代。

・Z世代(1990年代後半~2000年代生まれ):「ナンバーワンよりオンリーワン」「個性的であれ」という外圧
→何かについてとても詳しいオタクへの憧れ

←価値観の多様化により「圧倒的多数の、みんなが好きなもの」が激減
←“普通”が失われ、無個性だとどこにも属せず、“趣味をもたなきゃ”“好きなことを見つけて打ち込まなきゃ”と焦る
→「オタク」を名乗れない(SNSでライトな“にわか”のぬるい感想や知識の浅さは徹底的にバカにされる。)
→「●●推し」なら自称できる(SNSで叩かれない)

※ジャニーズ・映画・普通のエンタメは話題として盛り上がるため言いやすいがバレエの話をしても広がらないからコスパの悪い個性とされる

5. 圧倒的に時間とカネがない今の大学生

【時間】親世代に比べて学校が出席に厳しい。金銭的問題でアルバイトに時間を割く。卒業後の奨学金返済を考えて早い段階でインターンやボランティアなど就職活動に時間を割く。仲間内のコミュニケ―ションのため、LINEグループの和を保つために多くのコンテンツをチェックする必要がある。

【お金】大学生が親から貰える生活費はこの30年間で4分の1以下までに低下+物価や消費税率のアップ

→リーズナブルな趣味=映像視聴。
(YoutubeやABEMAやTVerは無料。有料のサービスも月数百円から千数百円。)
→無尽蔵に観られるが時間がない。
→映像やドラマを早送りする一因?

6. エンタメに“心が豊かになること”ではなく“ストレスの解消”を求めている。

例:応援しているスポーツチームが勝つ場面しか観たくないから勝った試合のダイジェストだけを見る

一日中、したくもない仕事をしてストレスを溜め込んで帰ってきて、あるいはLINEグループの人間関係に疲れ果てているのに、考えさせられるドラマなんぞ観たくはない。だからこそTVドラマにもスポーツ番組にも、ストレス解消という機能を求める。

→「自分にとって快適なものだけを摂取したい。」→「自分にとって快適な視聴方法で観たい」
→倍速視聴へ。

7. 共感至上主義と他者性の欠如

→「心が揺さぶられる」状態を避け「登場人物に共感できるかどうか」に寄りすぎている昨今の傾向


→到底共感できない人物の行動を見て、人間という存在がいかに多様で複雑であるかを畏怖や敬意や驚嘆とともに理解するという鑑賞行為の豊かさを構成する要素だが、「共感できない価値観に向き合い、理解に努める」ことに慣れていないとそれには大きなエネルギーを要するうえ、コスパが悪い。

→自分の考えを補強してくれる物語や言説だけを求めてそれを強化することになり、他者視点が欠如し、「自分とは違う感じ方をする人間がこの世にいる」という事実を忘れる、もしくは安直に「敵認定」する。

8. 「体系的な映画の観方」の一つ「監督名で映画を観る」人の減少。

・ライトノベルも作家ではなくジャンルで作品を選ぶ。

・「好きな作品」の意味が、かつては「監督なりアーティストなりといった作り手個人に向けられていたが、現代では「その作品を作ってくれる生産者としての好き」になっている。

・ニワトリの有する「おいしい卵を産んでくれるという機能」や「人間のために毎日栄養源を供給してくれるシステム」を愛でているのであって、個体としてのニワトリを愛玩動物にしたいわけではない。

9. 単位時間あたりの情報処理能力が高い人たち

日々大量の情報と物語を摂取するあまり疲れている一方で、短時間で大量の情報をさばかざるをえない状況にさらされることで、単位時間あたりの情報処理能力が上がっている。

・昨今のいわゆる大衆娯楽映画(「アベンジャーズ」シリーズなど)は1980年代当たりのそれと比べて、撮影技術などの進化で画面の描きこみ密度が大きく上がっている。

・大学の講義を早送りするのも、もはや“生身の人間が話す速度”にイライラするためかもしれない

・ABEMAの最初から1.5倍速になっている「アベマ倍速ニュース」や、Youtubeで不自然なほど早口の台詞やナレーションが漫画調の絵に乗った美容系動画広告など、ニーズがあってこそ存在する。

10. 倍速視聴は時代の必然とでも呼ぶべきものだった。

人々の欲求がインターネットをはじめとした技術を進化させ、技術進化が人々の生活様式を変化させるその途上で生まれた倍速視聴。10秒飛ばしという習慣は、「なるべく少ない原資で利潤を最大化する」ことが推奨される資本主義経済化において、ほぼ絶対正義たりうる条件を満たしていた。

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